MSBS自主開催ミュージアム04
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 テキスト部門 No.003
 プロローグ by ZN0931F / イナンナ・ローレンハイル

12月某日格納庫内
「ふぅ…。今回で最後かぁ…。今まで戦ってきた79回、色々あったけど楽しかったなぁ…。」
今回の出撃用のセッティングを組んでいる女は淋しそうに呟いた。
彼女は今回で引退を決意したパイロットの内の一人で、特に有名なわけでもない平凡なパイロットである。
「どうせ最後は結果が残らないんだから大好きな680mmキャノン5つつけて行こうかな…。」
680mmキャノン。それは彼女が最も愛用した武装。
周囲からは無茶だと非難されていたが、彼女はそれでも積みつづけ32機という撃墜記録を作った。
彼女の撃墜記録は56機。すなはち、撃墜数の大半は680mmキャノンによるものであると言う事になる。
「…これでよし。後はこれをサノバさんに渡して完了…っと。」
そう言うと女は汗を拭い、辺りを見回した。
空気が冷たい。いつもはチームのメンバーが居る筈だが、最後の大会は単独出撃と言う事もあって全員格納庫は別々に割り当てられていたせいで誰も見当たらない。
誰も居ないと格納庫はこんなにも冷たいものなのか。と、今更ながらにふと思う。
急に淋しさが込み上げて来る。
「サノバさん、どこに行ったのでしょう…?」
女はその淋しさを紛らわすために立ち上がり、自分の担当整備員であるサノバを探して歩き始めた。
幾許か時間が過ぎ、サノバも見つからないまま途方に暮れていると、急に見知らぬ声が聞こえてきた。
「イシュタル・レーンビットさん…ですよね…?」
イシュタル・レーンビットと呼ばれた女は声に反応し、声の方を見ると一人の少女が立っていた。
「ええ、そうですよ。私に何か御用でしょうか?」
「あ、あの、私、イナンナ・ローレンハイルと言います。…あの、私、貴方が…」
「落ちついて。ゆっくり話してごらんなさい。」
「あ、はい。えと、私、貴方のファンです。大会の中継が有る時はいつも見ていました…。それで、今回引退なさると言う話を聞いたのでどうしても一度お話してみたくてここまで来てしまいました。」
「そう…。無名な私にもファンが居てくれたのね…ありがとう。」
「なんだか元気が無さそうですね…。モニターで見ている時とはなんか雰囲気が全然違います。」
「あ、そんな風に見えた?あはは。やっぱり最後っていうのが心残りなのかな…?」
そう言ってイシュタルは作り笑いをしたが、やはりぎこちない。それを察してかは解らないが、イナンナはこう言った。
「私…MSBSに参加してみたいです。参加して、イシュタルさんみたいに活躍してみたいです!
 …やっぱり…無理ですか…?」
「そんな事無いよ。MSBSは誰にでも開かれているし、貴方よりもっと若いこだって参加しているんだから。」
「え…?そうなんですか?」
「ええ。だから、諦めずに登録申請していればきっと参加出来る様になると思うな。」
「そうですか!ありがとうございます!…あ、もうこんな時間になっていましたか。今日はありがとうございました。最後の大会頑張って下さいね!」
そう言うと、イナンナは急いで格納庫から出て行った。
「ええ!ありがとう!最後の大会頑張るからね!
…そう。まだ最後の大会が残っていたのでした。今日セッティングしたこの680mmキャノン5門搭載のケンプファーで憂愁の美を飾ります!」
「おいおい。なんか物騒な事が聞こえた様な気がしたが俺の聞き違いかい!?」
聞き慣れた声。担当整備員のサノバ・ボ・ズージャだ。
「あはは。機体案見せる前に聞かれてしまいましたか〜。」
「ったく。お前の機体っていつも一撃必殺狙いの大きいのばかりだからこっちは大変なんだぜ。で、改造はどうなってるんだ?」
「あ、はい。これです。」
■■ BC0931F / イシュタル・レーンビット ■■
[搭乗機種] MS-18E / ケンプファー (紫)
[性能諸元]
 BG:3/MC:2/Psy:0/IFG:2
 推力:+93%(-1%)/機動:-22%/索敵:+17%
 射撃:-12%/格闘:-28%/装甲:+200%/耐久:+53%
 戦闘限界:32分
[武装]
 680mmキャノン 680mmキャノン 680mmキャノン 680mmキャノン 680mmキャノン
[改造]
 オーキス・イージー マグネットコーティング-Lv.2 エクストラスラスター
[総コスト] 800msp
「最後だってのに結局そう言う無茶苦茶な機体か!まぁ、らしいと言えばらしいけどな。」
「だって、680mmキャノン5門搭載は夢でしたから〜。」
「2分で落ちても知らねーからな!」
「またまたぁ。流石に最後だからそうならない様には頑張りますって!」
「ま、それはともかくとして、OK!セッティング了解だ!後は任せときな!」
「それではお願いしますね〜。」
イシュタルは格納庫を後にした。
「あいつの機体を弄るのもこれで最後か…淋しくなるねぇ。」
サノバはそう一人ごちた。

12月26日
思い思いに自分の機体の下へ歩くパイロット達。
一穴開けてやろうという者、引退に一花咲かせようとする者、専用機体を狙う者…。
そんな中にあいも変わらず巨大な砲身を付けた機体に向かって歩いてゆくイシュタルも居た。
「今日は680mmキャノン59発撃つぞぉ!」
そんな事を言って周囲の失笑を買って照れ笑いなども見せていたが、やはりどこか元気が無いのは隠せなかった。
「ハァ…やっぱりちょっと淋しいなぁ…。自分で決めた事とはいえねぇ…。」
そう一人ごちつつケンプファーのコックピットに体を滑り込ませる。
「コックピットの中もこれが最後。出来るだけ長く入っているためにも頑張らないとね!」
そういって、イシュタルはメインスイッチを入れる。
エンジンの入る音とともに各部のチェックが為されていく。
オールグリーン。出撃準備整った。後は開始の合図を待つだけである。
コックピット内で静かに目を閉じ、意識を集中させてテンションを上げていくイシュタル。次第に鼓動が高鳴って来る。
そして目をゆっくりと開けた次の瞬間。出撃の合図が鳴り、参加者全員がフィールド内へと出撃していく。

出場クラス:A
チーム:無所属
MS-18E/ケンプファー


「さて…最後の大会最初はどんなのが見つかるかな…?」
機体をゆっくりと動かしながらモニターに意識を集中させていると、モニターの隅の方に赤い影が見えた。
センサーで確認してみると、それはフルアーマーガンダムだった。
「み〜つけた。さぁ、680mmキャノン様お願いしますよぉ!」
そう言って680mmキャノンのトリガーに手を掛けた瞬間、何かこちらに向けて殺意が押し寄せて来るのを感じた。
「一体何!?」
そう思うより早く体は索敵動作をしていた。
…見つけた…茶色のジオングだ。
そう思った瞬間死角に高熱源を確認。回避機動を取ろうとするも間に合わない。
「あぁ!いつの間に!?」
どうやら相手のサイコミュ兵器らしい。しかし、ビットの様な輝きがない所を見ると有線式だろう。
「油断したかな…。でも、次は攻撃あるとわかっているから避けられる筈!」
案の定またもや死角から殺意が迫って来るのを感じ、ランダムに回避機動を取ろうとする。
「え!?」
機体が重くて上手く回避機動が取れない。
「こんな時に680mmキャノンの重量が仇になるなんて!」
回避機動が取れていないケンプファーに対し高熱の光が激しく撃ち放たれる。
「あぐ!」
コックピット内を激しい衝撃が襲う。イシュタルは嘔吐しそうになりながらも必死にその振動に耐え、体勢を整えようとする。
しかし、重量過多のケンプファーはそんなイシュタルの意志に応えられないかのように体勢を立て直せないでいる。
ロックオンアラートがコックピット内に鳴り響く。
先ほどのサイコミュのジオングがふらついているケンプファーに向けてビームキャノンを発射する。
「え!?来る!?回避は間に合わ…あぁ!!」
ケンプファーの腕が1本消えた。
「よくもやってくれましたね!お返しをしてあげます!」
イシュタルはそう言い放つと、680mmキャノンのトリガーを引こうとするが、ロックオンアラートは尚も鳴り止まない。
「く…一体どこから!?」
トリガーから指を離し索敵するも敵の影が見えない。…一体どこから…そう思った瞬間カメラの隅に赤い影が見えた。
…ステイメン!!…影の正体を確認した時には既に赤いステイメンはビームランスを突き出し攻撃体勢に入っていた。
「か、回避しないと!!…く!!」
必死に回避機動を取ろうとするがやはりケンプファーは動きが鈍い。
直撃は免れたものの衝撃は確実に伝わってくる。
「こ、これじゃ機体がもたないよ…。次はもう無いよね…?」
そう思った次の瞬間、ボロボロのケンプファーに対し尚も殺気が一筋迫ってくる。
「まだいるの!?」
殺気を頼りに索敵。黒い物体が見えた。と、次の瞬間死角より熱源を感知し、コンピュータがセミオートで回避機動を取ろうとする。イシュタルも必死になってそれに修正を加えて行ったが
ぼろぼろになったケンプファーには最早機体を立て直す力すら残っておらず、動く事すらままならない。
「やられる!!」
その瞬間激しい衝撃が走る。
しかし、その衝撃の瞬間に出た光で相手がヘルメスであると言う事が解った。
「あぐ!ビットですか!?」
そう言い放った次の瞬間またもロックオンアラートが鳴り響く。
目の前のヘルメスから光が放たれる。
「く…!これで終わり!?」
光がケンプファーを包み込んでゆく。次の瞬間脱出装置が作動し、ケンプファーより脱出ポットが飛びだした。
「これで私のMSBSは終わりです。」
撃墜したヘルメスのパイロットへそう送ると、イシュタルは緊張の糸が切れたのか、ポット内で静かに目を閉じた。

[00:01]
移動しつつ索敵、赤いFA-78-1を発見。
[00:02]
殺気を感じて索敵、攻撃体勢の茶色のMSN-02を発見。有線強化ビームガンで攻撃され、機体に被弾。
殺気を感じた直後、茶色のMSN-02に遠距離から有線強化ビームガンで攻撃され、機体に被弾。
ロックオンアラート確認、茶色のMSN-02に遠距離からビームキャノンで攻撃され、機体に被弾。
ロックオンアラートに反応、攻撃体勢の赤いGP03Sを発見。赤いGP03Sに近距離からビームランスで攻撃され、機体に被弾。ダメージは軽微。
殺気を感じて索敵、攻撃体勢の黒いMAN-08を発見。ビットで攻撃され、機体に被弾。ダメージは軽微。
ロックオンアラート確認、黒いMAN-08に遠距離からダブルビームキャノンで攻撃され、機体に被弾。深刻なダメージを被る。
この攻撃により撃墜される。

ポット内に大会終了の合図が響く。
「終わったのね…。」
「よぉ!やっぱり2分で落ちだったな!だから言ったじゃねぇか!やめとけ。ってさ!」
ポットを回収しに来たサノバが茶化す。
「な、何よぉ!人が折角感傷に浸ってるって時にぃ!」
「わりぃわりぃ。一応これが最後って事だから、そんな結果でも良いのか?って思ってさ。」
「ん〜。そう言われると確かに悔しいのよねぇ…。でも、流石にあれだけ攻撃されて1回もかわせないんじゃ続けてもろくな成績にもならないと思うのよねぇ。」
「そうか…。それじゃ、仕方ねーよな。今日でお別れだ。さぁ、格納庫に戻ったぜ。」
「ありがとう。最後くらいはMSで帰還したかったけど、サノバさんに送って貰うのも悪く無かったよ。」
そう言ってイシュタルは脱出ポットから降り、格納庫を出た。
「イシュタルさん。」
格納庫を出ると、聞き覚えの有る声が聞こえてきた。
声のする方に目を遣ると、そこにはイナンナが立っていた。
「引退おめでとうございます。…これから、どうするんですか?」
「そうねぇ。取り敢えずトレーナーの資格を取ろうと思うの。」
「トレーナーですかぁ…。と言う事は、MSBSをやればイシュタルさんに教えてもらえるって事もあるんですよね?」
「あはは。教えるなんて大層な事は出来ないと思うけど、会う事は出来ると思うよ。」
「…それなら、尚更MSBSやりたいです!どんなに時間かかってもきっとパイロットになってみせます!!」
「…なら、今すぐなる?」
「え…?」
「さぁ、どうするの? なる?ならない?」
「な、なります!やらせてください!」
「よっし!決まりね!それじゃ、これから受け付けに引退申請しに行ってくるね。そうすると私の使っていたIDに空きが出来るから、それと同時に登録申請もしちゃいましょう。」
「は、はい!わかりました!それでは早速受け付けに行ってきます!!」
「あ、引退申請終わってからだよ!」
そう言うより早くイナンナは受け付けに向かって走り出していた。
そんなイナンナの後ろ姿を追いかけながら、今後のMSBSに別な楽しみを抱くイシュタルだった。

 詳細

【作品名】 プロローグ

【作 者】 ZN0931F / イナンナ・ローレンハイル

【サイズ】 1087650691bytes

【コメント】
んと、テキスト形式でも良いのですか?って、投稿した後に言っても意味ありませんね〈笑〉

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