【MSBSオリジナル兵器「オーキス・イージー」の出展についての考察】
はじめに
機体・武装等に関しては比較的「原典」である映像作品等を重視する傾向にあるMSBSにおいて、数少ないオリジナルといっていい兵器のひとつに「オーキス・イージー」(以下「ez」と略す)があります。
先日、縁あってドンパ・カンパ・ミトゥ氏のFlash「0.4.0」(注1)のお手伝いをさせていただいたのですが、その際に「ez」の絵を描かせて頂きました。
それは、おそらく文字で「ez」と描かれていなければ誰も「ez」だとは理解し得ないであろうデザインでありました。
多くの人は、戸惑われたかと思います。
何を笑って良いやらも理解できなかったのではないかと思います。
しかしながら、あの絵は自分なりに考察を幾重にも重ねた結論であり、あるいはそれ以上の意味を含んでいます。
そこで今回、この場をお借りして「何故ezがああなったのか」について絵で伝えられなかった事に関し論じさせていただこうかと思います。
なお、全く思いつくままに書き連ねていきますので、お見苦しい点は多かろうと思いますのであらかじめご了承ください。
(注1)http://nsts.ld.infoseek.co.jp/040.html
1「ez」≠廉価版オーキスの可能性
まず、何よりも重要なのは「ez」とは何なのかという事であります。
MSBSオリジナル兵器としてすっかり馴染み深いものとなっていますが、その氏素性については誰もが何となくしか考えた事はなく、故に人によってイメージは様々であろうかと思われます。
しかしながら、
◆ADV > 本来(私の)手抜きであのような形となっていたオーキスですが、かくあるべきという姿になります。 [2004/2/8(日) 00:10](注2)
…とディレクター氏が述べているように今回0.4.0における「ez」の姿こそが「かくあるべき姿」であり、ある程度運営サイドでのイメージが想定されていると考えられます。
同時に、0.4.0の機体データに見える「ez」の再現性は非常に高いものだと言えるかと思います。
さてその「ez」ですが、短絡的に名称から判断した場合の開発経路としては、まずオーキスがあり、然る後に廉価機として「ez」が生まれたという事になろうかと思われます。
その場合、開発順序上「ez」が登場し得るのはGP-03Dの登場後、0083年以降という事になります。
GP-03Dの有効性がある程度証明され、汎用化及び廉価量産化に踏み切るという発想は自然であると言えましょう。
しかし、敢えて問います。
この「名称から来る開発順」を鵜呑みにして良いものでしょうか?
そんな疑念を喚起する最大の要因は、「ez」のメインウェポン「HSアーム」です。
「かくあるべきという姿」になっての新設武装である事から、これが「ez」を語る上での重要要素であることは疑いありません。
しかし周知の通り、連邦軍は当初よりMS搭載用ビーム兵器の開発に大きなアドバンテージがあり、廉価量産機にも積極的にビーム・サーベルを搭載しています。
およそ知る限り連邦軍の機体にヒート系兵器は(鹵獲機体以外)ありません。
そもそも一年戦争における兵器史は「MS携行型ビーム兵器」の歴史とも言えます。
連邦軍の傑作機RX-78-2「ガンダム」に携行されたMS用ビーム兵器は、モビル・スーツを文字通り一撃で破壊する驚異的な性能でジオン軍を戦慄せしめました。
この事が引き金となって、MS用ビーム兵器は両軍における最重要課題のひとつとして認識され、熾烈な開発競争が行われました。
これは、ビーム系兵器が従前のヒート系兵器に対して非常に大きなアドバンテージを持つと両軍において認識された事を示しています。
結果、戦争末期には両軍最新鋭主力MSにビーム兵器がデフォルト装備となる程にまで爆発的に普及しました。
そして0083年には、ジオン残党軍「デラーズ・フリート」の廉価量産機であるMS-21C「ドラッツェ」ですらビーム・サーベルを携行しています。
周知の通りMS-21CはMS-06F2等からの廃物転用機体であり、素体の性質上ビーム・ジェネレータに問題があったはずなのに、です。
時代は、それほどまでに必死にビーム兵器を要求し、凄まじい勢いで標準化しつつあったのです。
そんな時代に、しかも「ビーム兵器先進国」であった地球連邦軍がヒート格闘兵器搭載にこだわる理由があるでしょうか。
単純に考えれば、たとえ廉価仕様にしたとしてもビーム・サーベルを搭載したであろうと考えた方が妥当です。
すなわち、連邦軍最新型兵器にヒート兵器が搭載される合理的理由はない、といえます。
しかしながら「ez」のメインウェポンが「HSアーム」であるのは紛れも無い事実、それもディレクター氏が「かくあるべき姿」との太鼓判を押した兵装であります。
時代の趨勢と実態との不一致。
一体、どのような事情からこのような状況が生まれているのでしょうか。
結論としては「前提」に問題があると思われます。
ディレクター氏が「かくあるべき姿」と太鼓判を押している以上、現に存在する「ez」のデータが間違っている訳がありません。
ならば「ez」の開発経路あるいは開発時期に錯誤があるのではないか、ということになります。
すなわち、「ez」は連邦軍最新型兵器ではない、という予測が立てられます。
(注2) Zリーグ「バトル・ロワイアル」賞獲得者への公式インタビュー(於MSBSヘッドラインZulu「MSBS交流チャット2」、2004年2月8日)
2 武装から見た「ez」=ジオン兵器説
では「ez」とは何者でしょうか。
機体データ的に推測をしてみましょう。
最大の鍵となるのは、やはり問題の発端「HSアーム」がメインウェポンである点でしょう。
既存の設定・開発史的な部分を無視し、純粋に技術的合理性という側面からこの「HSアーム」について検討すると、以下の推測が可能となります。
@「ez」はジオン軍の兵器ではないか
前述の通り、ヒート系兵器は連邦軍では(鹵獲機以外)ありえない兵器です。
これが「かくあるべき姿」なのですから、論理的帰結として「ez」はジオン系の機体なのではないかと推測されます。
A「ez」は、ビーム格闘兵器普及以前に開発された兵器ではないか
ジオン軍でもヒート系武器はMS-14「ゲルググ」及びMS-15「ギャン」のロールアウト以降姿を消していきます。
このことから「ez」の背後にはそれよりも古い時期からの開発背景が想像されます。
こうして考えていくと、「ez」の原型は一年戦争中期のジオン軍にルーツがあると考えるのが妥当ではないでしょうか。
そして「連邦軍所属」であるにもかかわらず「HSアーム」が依然標準装備であるということは、「ez」は鹵獲兵器扱いであるという事になるのではないでしょうか。
0087年時点で連邦軍が旧ジオン軍機体を改良を加えつつ利用していた事実(注3)を踏まえれば、そんなに突飛な発想ではないと思われます。
同時に「鹵獲機扱い」という事は、ジオン製原型機と「ez」の間にはほとんど相違は無いもの(あっても後付け追加装備程度)と思われます。
さて、では「ez」の原型となった機体とは何でしょうか。
前章最後で「ez」は鹵獲機扱いであり原型機とそう大きな変化は無いと想定しました。
そこから想定される原型機は、以下の特徴を備えていると思われます。
@近距離兵器にヒート兵器、遠距離兵器にビーム砲、ミサイルを持つ。
A開発史において、中期以前には既にプラン化されていたと想定される。
BMSの外殻となりうるだけの十分なサイズを持つ。
@の中でIフィールドユニット及びジェネレータ(以下「IF」)を除外したのは、Aとの関係です。
一年戦争時のIフィールド技術は、末期になり試験機にてようやく実用レベルに達したばかりの技術であります。
しかもサイズが大きく消費エネルギーも膨大という技術的に未熟な代物でありましたので、普及機には到底装備出来ませんでした。
故にこの装備は戦後に追加されたものと想定出来ます。(注4)
Aは前章の考察を受けて、Bは「ez」としての機能を考えた際の大前提条件です。
特にBは、原型機が通常サイズのMSではない事を示唆しています。
上記の前提を踏まえて機体一覧を通観すると「ある機体」がクローズアップされます。
…その機体とは…すなわちMA-04X「ザクレロ」です。
(注3)「機動戦士Zガンダム」中には、一年戦争期の旧式MSバリエーション機を最新技術で補強した機体がしばしば登場しています。
ここから戦後何年も経った後も、軍備にまで十分な予算が回らず鹵獲兵器等で戦力補強せざるを得なかった実情がうかがえます。
なお、それらの改修点は主にコクピット周りで、リニアシート、全天周モニター等、パイロット補助機能を強化しています。
あるいは錬度の低いパイロットを鑑みてなるべくMSのコクピット形状を共通にしようという意図もあったのかもしれません。
(注4) 一年戦争期には、「IF」で弾くべきビーム兵器自体が普及期であり、それを備えることに意味が無かった、という事情もあります。
当時のビーム兵器は主として艦砲射撃であり、それを曲げる努力をするよりは避けた方が早いと思われるからでしょう。
3 0.4.0における「ez」と「MA-04X」
とりあえず前章では、「ez」の原型機としてMA-04Xを想定してみました。
そこで、実際にバージョン0.4.0における両者の性能を比較してみます。
○「ez」
MSp500 武器4 改造3 加速2.00G 時間 30分 BG3 MC0 LS-
武装:HSアーム, ロングビームキャノン, 連装AMSミサイル, IFユニット
○MA-04X「ザクレロ」
MSp310 武器4 改造2 加速1.08G 時間180分 BG2 MC0 LS-
武装:HSアーム, HSアーム, メガ粒子砲, AMS小型ミサイル
注目されるのはやはり武装構成です。
「IF」こそ無いものの、ほとんど同一もしくは同種の下位バージョンで為されています。汎用傾向の強いMS・MAですが、その標準武装には機体特色・運用目的が明確にあらわれます。とすれば「ez」と近しい装備構成であるMA-04Xが「ez」の原型となった可能性は大いにありえます。
また、性能的にも意外に両者は似通っています。
ドンパ・カンパ・ミトゥ氏の調査による機体性能表(注5)から引用した両者の性能は下記のとおりです。
○「ez」
重量210 推力420 反転3.53 AMB- 安定C 装甲D 耐久20 センサー3000
射撃30 格闘36 機動34 SizeLL 腕- Psy0 IFG1
○MA-04X「ザクレロ」
重量185 推力200 反転2.86 AMB- 安定E 装甲D 耐久17 センサー5600
射撃29 格闘40 機動35 Size L 腕- Psy0 IFG0
両者の目立つ差異は、以下の3種類の要因に分けられます。
ア、「運用目的」によるもの。推力、センサー、格闘等。
イ、「サイズ」の差によるもの。重量、反転、耐久等。
ウ、「時代背景」によるもの。安定、IFG等。
アについては、両者の運用目的が「MA」か「外殻特化」かの違いであると言えます。(注6)
これはMAがMA単独での戦闘能力をも求められるのに対して、「外殻特化」はあくまでMSと一体で運用するあるという考え方の違いであります。
逆に返せば「ez」は中に他のMSを搭載する事が必須条項であるため、推力を過剰に持ったりセンサーを切り捨てている訳です。
イについては、「ez」がより大型化した分、鈍重になっていると見えます。反面大型化することで耐久性能は向上しています。
これはアで言及した「外殻特化」による変化の一種と断じる事が可能かと思われます。
「外殻」の最大の目的は内部MS等の保護であり、発想としては「避ける」のではなく「受けて耐える」という防御方法となります。
「IF」の搭載も、出力の余剰分を利用した対弾性能の向上を目指しており、そのための重量増加には目を瞑る形となっています。
この機動性能を犠牲にしてでも機体耐久力を高めるという発想が、機体の大型化に直結していく訳です。(注7)
最後にウですが、これは純粋な技術的進歩による違いです。
機体安定性も「IF」も、0083年に入り技術的に成熟したがための違いと考えられます。
こうして見ると、両者の相違点はアイウで合理的に相違が説明可能であります。
逆に言えば、機体傾向が非常に近しい機体であると考える事が出来るでしょう。
最後に、上記のような屁理屈を重ねる必要は全く不要かもしれません。
「HSアーム」なる武装は他に例の無い、MA-04Xと「ez」だけの装備です。
この事実一点のみを抽出して「ez」の原型機をMA-04Xと断じても、問題はほぼ無いとも言えます。
しかしながら、データ的に似ているというだけの理由で、「欠陥機」とされるMA-04X「ザクレロ」がMSBS界において猛威を振るった「ez」のベースとなったというのには戸惑いがあろうかと思います。
そこで次章からは、公式設定あるいはMSBS的設定を通じて「ez」=MA-04X説を補強していこうと思います。
(注5) http://p21.aaacafe.ne.jp/~flashgun/MSBS/040/MSList040.html
(注6)「MA」と「外殻特化」の最大の相違点は、最大被弾部分のパイロットの有無です。
端的にいえば「外殻」は所詮内部に存在するMS等を保護する盾・装甲に過ぎず、用が済めば投棄出来るという事です。
(注7)これはイコール、仮想敵の持つ主兵装の破壊力に対する見積もりの違いであると言っていいでしょう。
分かりやすく言えば、MA-04Xは対ビーム兵器を想定しておらず、対して「ez」は徹底した対ビーム兵器対策をとった、という事です(IFの追加も含め)。
詳しくは次章以降で言及します。
4 MA-04X「ザクレロ」の再評価
「ez」=MA-04X説の戸惑いの一端には、「欠陥機のMA-04Xがまさか」という評価があろうかと思います。
本章では、MA-04Xについておさらいと再評価をしてみます。
MA-04XはおおよそMSM-03「ゴッグ」と同時期くらいに北米キャリフォルニア・ベースにおいて開発されたと考えられています。
ジャブロー攻略戦直後、MA-05「ビグロ」と共に宇宙での試験を行う予定でシャア大佐の部隊に随行しますが、直後に開発計画中止となっています。(注8)
原因は「性能が期待値を満たしえなかったため」で、このため一般的には「欠陥機」と呼ばれています。
さて、MA-04Xの主な問題点は、機動性が思わしくなかった事です。
MA-04Xの基本戦闘方法は近接戦闘であり、高推力を生かし、自機正面の敵をあるいは拡散メガ粒子砲で撃ち抜き、あるいはHSアームで斬り刻むという一撃離脱戦法が基本となります。
この戦法の要は、一撃離脱を保証する高推力そして敵を正面に捕らえる高機動です。
そして残念ながらMA-04Xは十分な機動性能が確保できなかったとされています。
しかしながら、この点に関してMA-04Xを弁護する事は可能です。
MA-04Xの不幸は、要求された性能=仮想敵性能が理不尽に高過ぎた事です。
仮想敵とは、すなわちRX-78-2「ガンダム」です。
おそらくMA-04Xの開発がスタートした時期には、まだRX-78-2の存在はジオン公国軍には明らかになっていなかったと思われます。
開発史的に見ておそらく、MA-04Xの相手として想定されていた敵は、戦艦、戦闘艇、航空機、せいぜい戦闘ポッドであり、対MS戦は想定していないかあるいは敵MSの性能をMS-06F程度に見積もっていたものと思われます。
本来の仮想敵を相手にした場合MA-04Xの相対的機動性能が十二分に足りていたことは、実際にRX-75「ガンタンク」を翻弄してみせた事からも明らかです。強いていえば航空機を相手にした際に苦戦を強いられる可能性はありますが、当時の連邦軍航空機の武装はミノフスキー粒子によって自動追尾機能を喪失した「撃ちっぱなし」ミサイルがせいぜいの脅威で、あとは機銃程度しかありません。これら貧弱な武装ではMA-04Xを捕捉したり装甲を撃ち抜いたりはそう簡単には出来なかったでしょう。
ところが「赤い彗星」シャア・アズナブル少佐(当時)によって報告されたRX-78-2の存在と高性能ぶりはジオン軍の想像を絶するものでした。
曰く、ザク・マシンガンを無効化する装甲を持つ。
曰く、ザク数機を単機で瞬時に屠った。
曰く、戦艦並みのビーム砲を搭載している。
曰く、単独で大気圏を突破した。
曰く、「赤い彗星」を始め「青い巨星」「黒い三連星」といったエース達を次々と撃退・戦死せしめた。
曰く、地球方面軍総司令ガルマ・ザビ大佐を戦死させ、地球におけるミリタリーバランスを一変させた。
そんな事実と風説とが流布していく中、ジオン軍は必要以上に対RX-78-2を意識した兵器設計を強行していきます。
MA-04Xのロールアウトは、そんな絶妙のタイミングの悪さの中であります。
連邦軍の既存兵器あるいはRX-78-2以外のMSが相手なら、MA-04Xの機動性の相対的優位は覆らなかったでしょうが、しかし「ガンダム・ショック」ともいうべきジオン軍の RX-78-2への恐怖は、冷静な判断を下しえませんでした。
艦船や航空機を敵として想定していた機体は、唐突に現れたRX-78-2をその比較対照とされ、「欠陥機」などという不当に低い評価をされたのです。
そして悲しいかな本当にRX-78-2に遭遇・撃破されることによって、その評価を完全に確定させてしまう事となりました。(注9)
本章のまとめとして、MA-04Xは決して高性能とは言えませんが少なくとも「欠陥機」ではないという点についてご留意いただきたいと思います。
(注8)このあたりの経緯は諸説ありますが(具体的には、TV版準拠か劇場版準拠かで大きく分岐します)、本稿に影響しないので詳細は省きます。
(注9)…地球圏に数機(現在増加中)しか稼動していない最強の仮想敵に出くわすとは、なんという悲運の機体なのでしょうか。
5 MAとは何か
「ez」=MA-04X説の戸惑いの一端には、「MAがどうして外殻と同じような扱いになるのか」という評価があろうかと思います。
本章では「そもそもMAとは何か」を簡単にもう一度考えてみようと思います。
ところで、ここで今更ですがMAを語る際にひとつの前提を掲げておこうと思います。
それは、一年戦争時に限っては「ニュータイプ専用MA(以下「MAN」)」はMAとして扱わない、という事です。
MAという兵器は、大きく通常のMAと「MAN」のふたつに分けられます。
前者は基本的に重装甲・高推力・大火力で、一撃離脱戦法を基本とした強襲機であり、後者はサイコミュ搭載の大型・脱出機構搭載の遠距離砲撃機であります。
しかしながら後者に関しては、残念ながら本義的なMAの定義には合致しません。
理由は単純です。彼らは可動肢によるAMBAC姿勢制御を行い得ません。(注10)
AMBAC制御を行い得ない機体は、MAとは呼べません。単なる既存の戦闘艇(ガトル・ジッコの延長)に過ぎません。
これらが「MA」と呼称されるに至った理由は、権力者キシリア・ザビ少将の私的な意向で開発推進されたものであるためでしょう。
キシリア少将は、NT部隊というものに異常な執着を示し、早期からフラナガン機関を抱きこみNT研究を後援していました。
そしてフラナガン機関はその過剰とも言える期待に応え、極短期間でサイコミュを実戦レベルに仕上げることに成功しています。
しかしながら、当時のサイコミュは「ミノフスキー粒子影響下での精神波による遠隔攻撃」に機能限定されており、その開発成功はつまるところ前時代的兵器コンセプト( 「より遠くから、破壊力のある攻撃を」)への復古を意味していました。
これでは、わざわざ新体系の兵器であるMAを開発ベースにする必然がありません。
「MAN」が可動肢を持たない「戦闘艇」ベースなのは、その部分に由来します。
このような理由から、「MAN」は本来「ニュータイプ専用戦闘艇」と呼ぶべきであり、MAの性質を論ずるときには除外すべきだと考えます。
閑話休題。
「MS(モビル・スーツ)」とは、「Mobile Space Utility Instruments Tactical(戦術汎用宇宙機器)」の略語であります。
同様に「MA(モビル・アーマー)」とは、「Mobile All Range Maneuverability Offence Utility Reinforcement(全領域汎用支援火器)」の略語となっています。
現在の公式設定では「SUIT」や「ARMOUR」はあくまで略称であり、その省略語に大した意味は無いという見解をとっているようです。
しかしながら言語学的には「SUIT(服)」「ARMOUR(外装)」という既存の単語に略称の頭文字を合わせている事には大きな意味があるのではないでしょうか。
これは「モビル・スーツ」に対応した語として通常の宇宙服を「ノーマル・スーツ」と呼称する事が早期にジオン・連邦両軍に定着した事からも言えますし、それぞれの最省略表記が「MSUIT」や「MARMOUR」でなく「MS」「MA」であるという点からもうかがえます。
「SUIT」や「ARMOUR」は省略可能な、その省略表現それ自体に意味を持った用語であると判断して問題ないものと思われます。
であるならば、「ARMOUR(外装)」という表現は、非常に象徴的なものとなります。
そう、「MA」とは当初より「外装」すなわち「外殻」としての運用を想定されていたのではないか、と考えることが可能なのです。
この考えが単なる妄想で無い理由として、実例を挙げてみます。
まずは「機動戦士ガンダム」が打ち切りにならず全52話であった場合のプロットを書いた「トミノメモ」(注11)です。
これによれば、第33話「激戦 ドザムの強襲」において「ドザム」なるMSが登場予定でありました。
そこにはこうあります。
「ドズル麾下、コンスコン機動隊長は、Wベースの追撃に向む。
重巡チベ。2隻のムサイ。
それに、ドム+アッザムごとき白兵戦モビルスーツ”ドザム”を搭載して・・・。」
33話と言えば、一年戦争時系列上では丁度ホワイトベース隊がサイド6に至る時期にあたります。
既存の「宇宙世紀の歴史」と単純比較は出来ませんが、この機体が設計されたのは少なくともMA-04X開発と同じ時期であると思われます。
また、コミックボンボン90年3月号からの連載企画「MSV90」においては「ドグザム」なる機体も存在しているようです(注12)。
これはMA-08「ビグザム」の汎用性を向上すべく設計されたMAで、残念ながら企画のみで実機の製作には至らなかったとされる幻の機体です。
外見的特徴としては、機体上部に大型MSの上半身を移植したような感じで、そのMS部分が「汎用性を向上させた」部分であると見る事が出来ます。
先のトミノメモ中にあった「ドザム」との関連は不明ですが、やはりコンセプトは「MS+MA」による汎用化であるようです。
片やMA開発初期の機体、片や製作に至らなかった企画のみの機体。
両方ともに現在の「正史」には登場しない機体ですが、ここからMAが開発当初から最後まで徹頭徹尾「MS+MA」という状況を想定していたと判断できるかと思います。
MAはMSをベースにして生み出された新兵器ですが、隠れたコンセプトとしてMSとの融合が意識されていたのでしょう。
さて、では「MS+MA」というコンセプトを持たせたとき、どのような運用方法が考えられるでしょうか。
まず、MSとMAという異なる速度域の機体を運用するのですから「合体」という要素は不可欠でしょう。
これは、地上における「ドダイYS」であるとか、敵である地球連邦軍の「Gアーマー」を想起していただければ分かりやすいかと思います。(注13)
その場合のメリットは以下のものが思いつきます。
・ 積載量に余裕のあるMA側に推進剤、弾薬を持たせる事で航続距離・戦闘継続時間が延長できる。
・ MAの持つ「重装甲・大推力・高火力」を一時的にMSにも持たせられる。
・ 最悪の場合には、分離する事でMS単独行動が可能。
このように考えると、この「MS+MA」というコンセプトは、全く「外殻」と同じ発想から生まれている運用形態であると分かります。
MA側にパイロットが搭乗していた可能性は高いですが、事実上の「外殻」運用と考えて良いと判断できます。
ではこのコンセプトは何故映像に残る形で明確に現れなかった=実戦運用されなかったのでしょうか。
それはRX-78-2の出現とMA-04Xの「失敗」が原因でしょう。
ビーム兵器によるオーバーキルな破壊力は、当時の「外殻」コンセプトを完全に打ち砕きました。
結果としてこのコンセプトは一時中断、要素を分散して実現する方向に流れていきました。(注14)
これを回復するのには「IF」技術が必須であり、「ドグザム」あるいはGP-03Dの登場まで停滞を余儀なくされたものであります。
MA-04Xが必要以上に「失敗作」と言われるのは、このコンセプトが根底から覆された無念の為かもしれません。
では、時系列上でMSBSで再現されている時代前後のMAの開発系譜を「MS+MA」=「外殻」という視点で簡単に追いかけて見ましょう。
・MSの台頭/AMBACの有効性証明
↓
・AMBAC理論の洗練/MA開発開始 … 「ARMOUR」=「外殻」
↓
・MA-04X、「ドザム」開発開始 … 「外殻」コンセプトによるMA開発
↓
・RX-78-2の出現/MA-04Xの「失敗」 … ビーム兵器の台頭によるMAコンセプト転換
↓
・MA-05・MA-06・MA-08の開発 … より重装甲高火力=一騎当千(エース)仕様へ「外殻」路線変更
↓
・「スキウレ」「スクート」計画 … 「外殻」コンセプトの分散
↓
・「ドグザム」開発計画 … 「IF」=”対ビーム兵器”の出現による「外殻」コンセプトへの回帰
↓
・終戦/MA研究、連邦軍に … 旧ジオン系列企業、アナハイムエレクトロニクスに吸収合併
↓
・アナハイムにて、GP-03D建造 … 「外殻」コンセプトの復活。究極到達点
↓
・デラーズ紛争/GPシリーズ登録抹消 … 「外殻」コンセプトの絶滅
↓
・新装甲材質/ムーバブルフレーム技術の開発 … 機動兵器理論の転換
↓
・「可変MA」「可変MS」の台頭 … 「可変機」コンセプトの台頭
このようにMAの隠れたコンセプトを踏まえれば、「オーパーツ」等と揶揄されるGP-03D「デンドロビウム」という機体の存在が突飛でも何でもないあるべきMAのコンセプトを再現した正当進化型MAであった事が見えてきますし、後にいわゆる「可変MS/MA」という機体が登場するに至る流れが分かりやすくなります。
本章の結論としては、MA自体がそもそも「外殻」たる要素を備えていたのだ、という事になります。
いずれにせよ、MA-04Xが「ez」の原型たりえた事情について理解しやすくなったことと思います。
(注10)『機動戦士ガンダム公式百科辞典(2001/講談社)』によれば、MAN-08「エ…ヘルメス」は機体内部の高性能ジャイロで姿勢制御をしていました。
同書はそれを「機体内部でAMBACするようなもの」と謎の表現をする事でMAの定義に合致させようとしていますが、やや苦しいのではないでしょうか。
ちなみに一般MSも主に股間部分に備えられた小型ジャイロで姿勢制御を補助しているので、ジャイロ=MA特有の装備とはいえません。
(注11)『機動戦士ガンダム記録全集5(1980/日本サンライズ)』第33話「激戦 ドザムの強襲」より。
(注12)自白しますが、原本未調査です。ネット掲示資料より全面引用しています。
余談ですが、「0.4.0」での「オーキス」の元ネタは、この「ドグザム」です。
(注13)この「Gアーマー」の名称を持って、本来的に宇宙世紀では「内部に機体を収納する運用形態」を「アーマー」と称したという可能性も指摘できます。
(注14)まずMAは単独運用を余儀なくされた上、耐弾性能向上のため巨大化/重装甲化していきました。結果としてコストが割高のエース専用機となります。
そして「火力強化」特化として「スキウレ」が、「航続距離強化」プランとして「スクート」が、それぞれ計画されました。
この両者に共通したポイントは「廉価」で、当初求められた能力以外のものは耐弾性能を始め完全にオミットされています。
6「ez」という兵器の意義
前章では「史実」的にMAというものが本来「外殻」の要素を持っていた可能性を指摘しました。
本章では、MSBSすなわち「仮想」歴史を元にした開発史シミュレーションを行い、「ez」の存在の必然を追いかけてみます。
MSBSの世界観はMS開発史上に限定すると「当時ある全てのMSが量産化されている状態」と言い換えることが可能であります。
MSBSの設定は0083年前後で固定されており、その時代までに存在しえた機体ならば必要MSpを支払いさえすれば確実に入手出来るからです。
また、身も蓋も無い表現ですが、MSBSはあくまでシミュレーションゲームであり、それゆえ試合中には死人は決して出ません。
それは言い換えれば「参加しつづければいつかはエース級の経験値・MSpを獲得し得る」すなわち「全ての人が最強の装備を出来得る」という事になろうかと思います。
この前提は、通常知られる宇宙世紀の「史実」とは全く異質な、非常に特殊な状況です。
当然そのような環境下では、兵器開発も「史実」同様の流れに添おうはずもありません。
MSBS的な「仮想」要素を考慮に入れずに既存の「史実」の要素のみを持ち出しても、現状の考察には役立ちません。
「仮想」歴史における0083年代は下記のような状況であると想定されます。
戦後復興期に、連邦軍は多額の予算を投入してGP計画を推進します。
これは本来、戦争には勝利したものの疲弊し相対的に影響力の低下していた地球連邦政府の軍事面での示威力向上を企図したものであり、同時に最新の技術を投入した「ガンダム試作機」のデータを採取し量産機であるRGM-79系列にフィードバックする事で、結果的に安価に連邦軍の戦力の底上げを行おうとしたものと考えられます。
しかしながら、現在軍に在籍しているほぼ全てのパイロットがエース候補であるという「仮想」状況は「ガンダム試作機」そのものの量産を要求します。
そしてその流れから、GP-03D「デンドロビウム」の量産化という発想が生じます。
しかし、GP-03Dはあらゆる意味で「規格外」であるため、単純な「そのままの量産」のみが求められたとは考えにくい所です。
同機の最大の問題は「単純な量産化ではコストパフォーマンスが非常に悪い」という点です。
機体自体が非常に高価な上、運用に際しても非常に制限が多いからです。
MSBS的に言うなら「必要MSpが高すぎてそう簡単に手が届かない」「GP-03S以外の機体で使えない」という事になります。
ここから、同一コンセプトの汎用廉価機の登場を希求する動きが生じる訳です。
そして地球連邦軍はその要求に対し、鹵獲したMA-04Xの改修機を流用することで対応しようとしたと思われます。
この流用のメリットは、
・ 在来鹵獲機を改修対応することで開発費を大幅に削減出来る。
・ 固定機種用オプションでないため、対応機種が多く汎用性が向上される。
等、多岐に渡っており、一からの廉価機設計よりもはるかな旨味を持っていたと思われます。
一方で、デメリットも存在します。
・ 設計が古く、ビーム兵器の搭載が不十分。
・ 機体強度が不十分で外殻に十分な耐久度を確保できない。
・ 素性が「ジオン」製。
まず設計の古さとビーム兵器の搭載問題ですが、確かにMA-04Xはビーム白兵武器を未実装ですしハンパな改修では搭載は不可能でした。
何故なら「MA-04X」の場合、機体の機動性を維持するのに「HSアーム」の重量によるAMBAC補正が重要な要素となっていたからです。
「ez」化するにあたりこれをビーム兵器に換装すると、必然として全体のバランスの再設計を行わねばなりませんので、廉価機として価値は無くなってしまいます。
ここでもし「史実」どおりビーム兵器隆盛であるならば、「ez」は無理にでもビーム・サーベル携行の為の大改修を行わねばならず、結果としてMA-04Xの機体流用を諦めて新型廉価機を企画・設計したでしょう。(注15)
しかしながら「仮想」史では人が死なず、それゆえ多くの人は「最強の装備」を入手可能としています。
その「最強の装備」のひとつに遠距離ビーム攻撃に干渉し射線を屈曲させるという「IF」があります。
これを装備した機体がひしめく戦場では、必然として低レベルのビーム射撃兵器の使用率・価値が低下します。
そしてこのような「ビーム兵器が封じられている状況」ではまだビーム兵器が存在しなかった時代の兵器コンセプトが復古します。
結果「MA-04X」という旧設計機が、最小限の再設計=廉価を維持したままに、実戦再投入する事が可能となったのです。
また機体強度の問題では「IF」を搭載する事でその問題の大半が解決できます。
元々MAは「重装甲」「高推力」がコンセプトであり、ビーム兵器以外の大抵の兵器への対応は想定されていました。
同時に、機体サイズを大型化する事で素体強度を向上させてもいます。
この点に関しては「IF」の搭載と機体サイズ変更とが上手く連動し、廉価性を維持できる程度の最小限のバランス調整で済ます事が出来たのではないかと推測されます。
最後に、「ジオン製」という素性については、「ez」という名称をつける事で解決しています。
原型機がジオン製と明かせば当然連邦議会や世論の風当たりは強かろうと思われますし、「連邦軍の軍威強化」という「GP計画」のコンセプトにも合致しません。
そこで、その素性を隠蔽すべく「ez」の名を冠したという事でしょう。
こうして「MA-04X」は連邦軍最新鋭兵器「ez」として生まれ変わったのです。
(注15)「ez」が連邦軍最新鋭兵器とするならば、この機体にはロングビームキャノン用の「BG」が搭載されています。
よって、最初からそれを流用したビーム・サーベルを装備し、それ相応の重量バランスでキチンと機動性を確保したと思われます。
おわりに
本稿では「ez」の武装・性能からその機体原型を類推、そのルーツを一年戦争中期のMA-04Xであると結論付けました。
これがすなわち、「0.4.0」において筆者が「ez」をあのように表現した理由であります。
そして、おそらくこの結論はMSBS運営スタッフ側で計算された「必然」ではないかと思います。
以前、某所で無責任な希望がMSBS運営スタッフに投げかけられた事があります。(注16)
「ザクレロにもっと愛を」
そんな感じの言葉でなかったかと記憶しています。
ディレクター氏は、それに「無理だよ」と苦笑で応じられていたように思います。
誰もが、冗談と思った一連のヨタ話でした。であるはずでした。
…MSBS運営スタッフ側は、その「無理」を見事に成し遂げてみせたのでしょう。
そうでなければ、これほどまでに史実と虚構の複雑に絡み合ったハイレベルな整合性は取れないと思います。
プレイヤーの無責任な投げかけに絶妙のバランスで応える誠実さ。
使用率が高いが嫌われ者の「ez」と、人気はあるが使用率は高くないMA-04Xとを、無理なく見事に融合するというハイセンス。
ぱっと見に判らぬよう、しかしよく見れば気づく所にそっとネタを忍び込ませる遊び心。
本稿を書きながら、MSBS運営スタッフの素晴しい仕事にただただ感嘆するしかありませんでした。
このデータを「あるべき姿」であると判断されたのがディレクター氏であるのかデータ担当氏であるのかは判然としません。
しかしながらこの事から、MSBS運営スタッフ一同がMA-04Xという機体に対し最大限の愛情を注いでいると断言できるかと思います。
MSBS運営スタッフからは、すでに「想い」が投げかけられました。
次は、我々が応える番ではないでしょうか。
20040619 AG0891M ハイヤ・ウルエ
(注16)このあたりのやり取りについてはなんとなく面倒だったので裏付けとってません。
大体こんな感じだったかという記憶に基づく再現です。
<参考文献>
・「トミノメモ」(『機動戦士ガンダム記録全集5』/日本サンライズ、1980)
・『GUNDAM CENTURY(復刻版)』(みのり書房、1981/樹想社、2000)
・皆川ゆか編『機動戦士ガンダム公式百科辞典』(講談社、2001)
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