MSBS自主開催ミュージアム04
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 テキスト部門 No.013
 コネタ:機動服と機関銃 by AG0891M / ハイヤ・ウルエ


コネタ:機動服と機関銃 〜マシンガンを通しての宇宙世紀概論〜

AG0891M/ハイヤ・ウルエ


はじめに

 歴史というのは基本的に「流れ」であります。
 あるものが流行り廃れていく背景には、理由が明確に存在します。
 逆に言えば、ある事柄の流れを追う事で、その時代の流れを読み解く事も可能という事になります。
 そこで本稿では、MS用武装のひとつ「マシンガン」を例にとり、宇宙世紀0079年以降のおおまかな流れを概観してみようと思います。
 MS用マシンガンは、MS開発史においては初期にほんの少しだけしか活用されなかった不遇の武器といえます。
 この武器はどのように生まれ、どのように廃れていったのか。
 その流れを簡単に追いかけつつ時代の流れを読み解き、ついでにそこから「MSBSとは何か」まで考えてみたいと思います。
 簡単にですが。


1 ザクは何故雑魚なのか 〜120mmマシンガンの効用と限界〜

 一年戦争中最も多用されたモビルスーツは、MS-06『ザクU』です。
 その標準的な武装は下記のとおりですが、これらには使用目的が明確に存在します。

  ・120mmマシンガン
  ・240mmバズーカ
  ・ヒートホーク

 240mmバズーカは核弾頭あるいは通常弾頭を装填、対艦射撃戦闘を目的としています。
 ヒートホークは、対艦肉薄攻撃を目的としています。

 ではMS-06の基本装備射撃武器である120mmマシンガンの使用目的は何でしょうか。
 それは、対小型航宙機戦闘用です。
 ポイントは、対MS用に開発された武器ではないというところです。
 MS-06の登場時期は連邦軍にまだMSが存在しなかった頃です。
 当時の連邦宇宙軍は基本的に巨艦巨砲主義であり艦船が主力ですが、艦載戦闘機や小型機動艇といった存在も無視できません。
 これら小回りの効く小型航宙機に対抗する手段として、連射式の火器による面攻撃が可能な120mmマシンガンが開発されたのです。

 それゆえこの120mmマシンガンは、対MS戦で遅れをとることになりました。
 連邦軍のV作戦を察知したシャア・アズナブルは、サイド7に偵察としてMS-06Fを3機派遣しましたが、そこで史上初のMS戦が行われました。
 結果、MS-06Fは2機がかりであったにもかかわらず連邦軍のRX-78-2に一方的に敗北します。
 その原因のひとつは、所持していた120mmマシンガンではRX-78-2の装甲に傷ひとつつけることが出来なかった事でした。
 しかも、稼動前の相手の至近距離に近づいていたにもかかわらず、です。

 前述の通り、120mmマシンガンにはそもそも対MS戦使用が想定されていません。
 この時期、120mmマシンガンは戦車砲を連射することを優先し、弾速・装甲貫通性能は重視していなかったと思われます。
 あくまで装甲が薄い小型航宙機に対して最適化されている武器、ということです。
 結果を見ての通り、120mmマシンガンはRX-78-2の装甲を傷つける事が出来ませんでした。

 この点から、120mmマシンガンを対RX-78-2戦に使用するのは根本的な間違いがあるといえます。
 もう少し言うなら、基本装備のみのMS-06は対MS戦闘には役者不足という事になります。


2 シャア・アズナブルの責任問題

 ジオン軍のRX-78-2への対処ミスとその後の過剰な反応の原因の多くは、「赤い彗星」シャア=アズナブルにあります。
 一般に評価の高いこのパイロットは、しかし指揮官としては無能だったのかもしれません。

 前述の通り、RX-78-2クラスのMSに対しMS-06が用いる事が出来る攻撃手段は、非常に限られていました。
 特に120mmマシンガンは命中させる事は可能でも、分厚い装甲を貫通するのは絶望的でした。
 となると、通用するのは対艦兵器である240mmバズーカ/ヒートホークしかありません(注1)。
 ですが、240mmバズーカの装弾数と弾速は、RX-78-2と正面から戦うにはあまりに心もとないものでした。
 ヒートホークも、斧の刃を立てなければならないという構造上動き回るMSを相手にするには非常に使いにくいものでした。
 そして、それでもジオン軍は、RX-78-2に対抗するためにはこれら間に合わせの武器を使用するしか無かったはずなのです。

 しかしながら、追撃部隊指揮官シャア=アズナブル少佐はそうしませんでした。
 彼は最初の遭遇戦で生き延びた部下から、120mmマシンガンが全く効果を示していないというデータを得ていたはずです。
 にも係わらず、彼は後々までもRX-78-2に対してマシンガン装備のMS-06を出撃させつづけているのです。

 240mmバズーカ等の弾薬が欠乏していたためでしょうか?
 いいえ、彼はしばしば当時の直属の上司ドズル=ザビ中将にMSの補給を依頼しています。
 ドズル中将も、V作戦を追うシャア少佐の度重なる補給要請に優先して対応していた様です。
 にもかかわらず、彼の指揮下のMS-06Fの大半が120mmマシンガンを持っていました。
 装甲を打ち抜けないと分かっている120mmマシンガンを、です。

 あるいはこれは、彼とザビ家との確執を背景に計算ずくで行った利敵行為でしょうか。
 いいえ、彼は「昇格してザビ家の懐に飛び込む」事を目的としていました。
 意図的に手を抜けば、目的が遅滞し自身が失脚するだけで、ザビ家の打倒には全くつながりません。
 当時の言動から見るに、おそらく天然で采配ミスを仕出かしていた印象を受けます。

 では「マシンガンで追い込みバズーカもしくはヒートホークで仕留める」というフォーメーション運用をしていたのでは?
 いいえ、ありえません。
 何故なら、当時のジオン軍MS運用の基本は『一騎駆け』すなわちパイロットの個人技であったためです。
 いわゆるエースパイロットが多く排出された背景には、この個人技重視の傾向がありました。
 例外中の例外が、黒い三連星による三位一体のフォーメーション『ジェットストリームアタック』です。
 これが有名になるほどにジオン軍のMS小隊運用は遅れていました。

 ホワイトベースが生き延び続けアムロ=レイが異常な撃墜スコアを叩き出せたのは、RX-78-2の装甲とシャアの無策のお陰といえます(注2)。
 地球方面軍総司令官ガルマ=ザビ大佐戦死後に彼が更迭された原因は、案外この明らかな采配ミスゆえかもしれません。


 (注1)
  兵器の持つ標準火器の威力はその兵器の装甲を貫徹可能なように、という観点があるそうです。
  これを適用すれば、RX-78-2の装甲はビームライフルの威力を元に強度計算されていると思われます。
  ビームライフルを「戦艦のビーム砲並み」と評するなら、RX-78-2の装甲も戦艦並みで想定する必要があります。 

 (注2) 
  「素人」アムロ=レイのスコアの異常に見える撃墜数には、いくつかの論理的必然があります。
  後半の「『ニュータイプ』覚醒」という要素を除いたとしても、彼は必然としてエースとなれたはずです。
  第1に、激戦区を交代要員無しでほとんどフル出撃している事。
  本来なら交代要員と3交代くらいで運用すべきところを、人員不足のためにほぼ一人で毎回出撃しています。
  第2に、当時のRX-78-2の装甲に抗するだけの兵器がほぼ存在しなかった事。
  マシンガン無効、バズーカは回避、ヒートホークは盾で止めるというほとんどインチキ無敵モード。
  死なない事がエースへの道というならば、この擬似無敵モードはエースへの近道であったといえます。
  第3に、アムロ=レイの熟練を学習型コンピュータが強力サポート。
  シャアの戦力逐次投入及び武装選択ミスの反復行為は、教育型コンピュータにとって最良の教育環境であったと言えます。



3 頭文字G 〜ジオン開発陣の混乱と迷走〜

 さて、シャアが更迭され、RX-78-2のデータを受領したジオン軍は、仮想敵の基準をこのスーパーMSに据えます。
 戦争後期ジオンが迷走ともいえる兵器開発ラッシュを行ったのは、この「ガンダム恐怖症」とでも言うべき衝撃ゆえであると思われます。
 結果、それ以降のジオン新型MSの武装は明らかに破壊力過剰になっていきました。

 RX-78-2との遭遇以前から開発されていたと思われるMSには、後付けと思われる特殊武器が装備されるなどしました(注4)

   ・MS-07B『グフ』…装甲を無効化し電気で直接内部機構へダメージを与える「ヒートロッド」を装備(注5)。
   ・MS-09 『ドム』…メイン武器として「専用」360mmバズーカ装備(注6)。

 RX-78-2との遭遇以降に開発開始されたと思われるMSには、十分な攻撃力の搭載を必須条件にしていました。

   ・水陸両用MS  …水冷式ジェネレータによるメガ粒子砲の装備。
   ・次期主力MS  …「ビーム兵器搭載可能なMS」が前提。
   ・統合整備計画 …MS用手持ち兵器の再設計。主に規格統一と威力増強。

 そしてその証拠は、「ガンダム(Gundam)」登場後に企画立案されたと思われるMSの名称に見て取れます。

   ○MS-10『ドワッジ』    …"Dwadge"
   ・MS-11『アクトザク』   …"Action Zaku"
   ◎MS-12『ギガン』     …"Gigun"
   ◎MS-13『ガッシャ』    …"Gassha"or"Gatsha"
   ◎MS-14『ゲルググ』    …"Gelgoog"
   ◎MS-15『ギャン』     …"Gyan"
   △YMS-16M『ザメル』    …"Xamel"
   ◎MS-17『ガルバルディ』   …"Galbaldy"
   △MS-18E『ケンプファー』  …"Kampfer"
   ・MS-19『ドルメル』    …"Dolmel"

 このように、多くの機体名称の頭文字が"G"となっています(注7)。

 MS-10『ドワッジ』についても、ドム系を示す『ドワ』にガンダムを示す『G』を足したのではないかと推測できます。
 これはMS-09G『ドワッジ』が『G型ドム』の意で『ドワッジ』と呼ばれたのと同じ理屈でのネーミングです(注8)。

 G、G、G。まさに『プロジェクトG』とでもいうかのごとし。
 ジオン技術陣の過剰なまでのRX-78-2『ガンダム』への対抗意識あるいは恐怖が見て取れます。

 彼らは、RX-78-2を十分に破壊しうる威力を持つ兵器を求めて必死だったのです。
 特に連邦軍で開発成功している汎用MS携行用ビーム兵器の開発が遅れていた事が、強い焦燥を生んだものと思われます。
 しかし、上層部の焦りにもかかわらず、その開発は難航していました。
 その結果「可能性があるなら何でもやってみる」という、新兵器開発計画乱立を誘発しました。
 無秩序な開発は、各開発セクションの横の連携を破綻させ、生じた成果も試験兵器の逐次投入で次々失われていきました。
 こうして、只でさえ資源に乏しいジオン軍は貴重なリソースを分散、迷走していきました。

 ここまでくると、もはやRX-78-2は戦略兵器であったといっても良いかもしれません。


 (注4)
  本稿ではEMS-10『ヅダ』についての考察を省略しています。
  本稿を書いている時点では未だこの機体に関する設定が明確ではないためです。
  外見から見ると、ザクとギャンの中間にあたる機体で、地上用に特化されたMS-09系と対になるべく宇宙用として開発されたようです。
  武器についてはMS-06系のものが流用されているようですので、廃棄理由は案外「RX-78に対抗する火力が無い」からだったかもしれません。
  いずれにせよ、詳細な設定待ちですね。

 (注5)
  YMS-07、MS-07Aにはこの装備が無かった事から、わざわざ後付けで搭載した内蔵兵器と考えられます。
  なお、MS-07B『ランバ=ラル専用グフ』の持っていたサーベルを『試作型ビームサーベル』とする説も一部にはあるようです。
  この剣については時代時代で様々な解釈がなされていますが、筆者は不勉強なので詳細は割愛します。
  最新説はマスターグレード「グフ」解説書による『形状記憶した高分子化合物を一瞬にして発熱体の刃に変換して剣にする』というもの。
 
 (注6)
  360mmバズーカは元々MS-09系専用武装です。
  この武器がMS-09系以外の機体で使用可能になったのは、実は戦争末期の統合整備計画で再設計されて以降の話です。
  MS-09は「装甲が厚く推力/機動が高いが、行動限界時間が短い」という典型的重装型突撃機です。
  そのため、装弾数に乏しくても破壊力のあるバズーカ系武器を専用武器として持つ事になりました。
  例外としては、ザクのマニュピレータで保持出来る様カスタマイズした特製360mmバズーカというものがあります。
  MS-06R2『ジョニー=ライデン専用ザクUR2』の持つ360mmバズーカ等がそれにあたります。

 (注7) 
   ◎…頭文字が"G"のもの。
   ○…"G"が強く意識されていると思われるもの。
   △…原型機の正式な名称が不明なもの。
   ・…"G"が意識されていないもの。

  YMS-16M『ザメル(メルザ・ウン・カノーネ)』及びMS-18E『ケンプファー』については保留します。
  これら「意味の通じる言語(ドイツ語)」を正式な呼称として用いているとはちょっと考えにくいという理由です。
  実際、これら機体の名称は他の機体と並べた時に違和感があるように見えます。
  どちらも形式番号が派生機(末尾にアルファベット付)である事を示しており、原型機の呼称は別のものであった可能性があります。
  なお『ザメル』と『メルザ・ウン・カノーネ』が別機体であるという説についてはここでは無視し、同一として扱います。
  理由は「異なる」といってもせいぜい派生機程度の差異であり、全くの別系統機種だとは認められないためです。

  MS-16の原型機らしき機体については、MS-16X『ジオング』があります。
  が、名称がMS-16Xの頃から付いていたのか、後にMSN-02に形式番号変更された後にそう名づけられたのか未調査ですので保留します。
  「ジオング」が正式な名称であった場合、国名「ジオン」を強調する事に目的が置かれた呼称であるといえます。
  これはMS-11『アクトザク』の呼称が、ジオン初のMS『ザク』を強調しているのと同じ理由でしょう。
  …なお余談ですが、自分はMS-16X(MSN-02)とYMS-16Mは、同一のフレームを用いた同系列機体だと考えています。

  MS-16『ドガッシャ』については、MS-13『ガッシャ』の派生機であるため形式番号誤記と解釈しスルーします。

  MS-19についてはMS-19E『カタール』なる機体が存在します。
  が、形式番号より派生機であると思われるので、MS-19『ドルメル』を優先表記しました。

  なお水陸両用機、『ニュータイプ』専用機といった用途限定機には、上記の法則は見られません。 
 
 (注8)
  戦争末期のMS-09「ドム」系バリエーションの呼称の一部で見られる法則です。
   例) MS-09G…「ドワ」+「G型」=『ドワッジ』
      MS-09S…「ドワ」+「S型」=『ドワス』

  この一方で同時期にMS-09F『ドム・フュンフ』なる呼称を行った例も存在します。
  しかしMS-09FとMS-09Sは、MS-09(B)とMS-09Rの関係と同じく同系統機種の陸戦仕様と空間戦仕様ではないかという考察もあります。

  特筆すべきは、MS-09GとMS-10とでは同じ『ドワッジ』でも、そのネーミングの由来が全く違うという事です。
  MS-09G『ドワッジ』は「G型ドム」の意、MS-10『ドワッジ』は「ガンダムに対抗するドム」の意だと思われます。
  つまり「全く別の意味を持つ同じ名前が、偶然付けられたものだ」という事が出来ます。


4 マシンガン大勝利 希望の未来へレディーゴー

 さて一年戦争後期。
 ジオンがあれほどまでに恐怖したRX-78系MSは結局何機もは現れませんでした。

 代わりに彼らの眼前に立ちはだかったのは、RGM-79『GM』という廉価量産型MSでした。
 RGM-79は決して性能が悪かった訳ではありませんが、廉価機らしく装甲強度はさほどでもありません。
 効果があるなら、単発式のバズーカより面攻撃可能で手数の増えるマシンガンの方が対MS戦では有利となります。
 学徒動員でパイロット錬度が低下していたジオン軍にとっては、ビームライフルよりも有効だったかもしれません。
 また、連邦軍はRGM-79を集団運用しました。
 数に任せた敵の進攻を食い止めるためには、弾幕を張り敵を牽制する必要がありました。
 反面、バズーカ系単発武装の弾数不足は非常に心もとないものがありました。
 強固なシールドを前面に押し立てたRGM-79の群れは、単発攻撃によって戦闘不能に陥る確率を大きく減らす事に成功していたと思われます。
 このような事情から、戦争の最後の最後になって思いもかけずマシンガン系武装は復権を果たすこととなりました。
 あれほど必死に開発したビーム兵器よりも局面次第では有効であるという状況は、非常に皮肉なものがあります。

 戦争末期になって「対MS戦対応型」の90mm/120mmマシンガンの生産が開始された背景はそのような感じであったのでしょう。
 もっとも、この頃にはジオンの敗戦はほぼ確定的となっていました。

 しかしながら。

 ここから0087年までのつかの間、マシンガン系武装は凄まじい勢いで普及していきます。
 これら新型マシンガン等は、戦後のジオン残党軍の駆るMS-06等に携行され、対MS戦主体となった戦場で十分に活躍します。
 対MS戦闘能力に乏しかった時代遅れのMS-06が一線級で活躍しえたのは、正にこの新型マシンガンのお陰とも言えます。

 また戦争末期から戦後数年の間は、連邦軍の主力量産機であるRGM-79系機体でさえも基本兵装としてマシンガンを携行しています。
 エース用となったRX-78系MSにも、ガトリングガンやフレイムランチャーといったマシンガン系火器を主兵装に持つ機体が現れます。
 0085年頃ロールアウトする連邦軍次期主力量産型MS、RMS-106『ハイザック』にも「ザクマシンガン改」が装備されています。  

 このようなマシンガンの爆発的普及の背景には、様々な要素があったのでしょう。
 ひとつは、マシンガンの威力向上により一部の例外を除きMSにダメージを負わせる事が可能になったこと。
 口径を小さくして弾速を上げ装甲貫通力及び装弾数を向上した改良型マシンガンは、対高機動MS戦に絶大な効果がありました。
 ひとつは、両軍それぞれの事情でパイロット錬度が低かったため、火器の命中率に不安があったこと。
 ジオンは熟練パイロットの喪失で、連邦は速成機種転換により、MSの戦闘能力に大きな不安を抱えていました(注9)。
 結果として両軍ともに、最も戦果が期待できる武装としてマシンガンを選択する事になりました。

 MS用マシンガンは、この瞬間激しく光り輝きました。
 0083年のデラーズ紛争期を全盛として、MS携行用マシンガンは戦場で華々しい戦果を上げていきました。


 (注9)
  特に連邦軍では、初期RGM-79系の基本装備に「ビームスプレーガン」を採用しています。
  この背景には、高価かつ高度な工作精度を要したビームライフルの生産が追いつかなかった事もありました。
  しかし、ビームを収束させないことで命中率を向上させるビームスプレーガンにより多くの需要があったからでもあります。
  近距離まで引き付けて放たれる拡散ビームというコンセプトは、射手の射撃能力に対する不安のあらわれでした。
  ちなみに戦争最末期になると、同じハンドガンでも収束率を向上させ威力を高めた「ビームハンドガン」が登場します。
  これは、ある程度MS操縦の錬度が高くなったパイロットからの要請で開発が行われたものと思われます。 
  こちらは「廉価な」あるいは「特殊環境下での」ビームライフルの代用品でした。 


5 錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう。

 しかしながら、この栄光はいつまでも続きませんでした。

 0087年に勃発したグリプス戦役前後の地球圏の状況は比較的安定していました。
 ティターンズの台頭と専横、対抗して起きた反地球連邦運動など局地的な紛争の種はあるものの、全地球圏規模での戦争は起きていません。
 グリプス戦役は、あくまで地球連邦軍内の派閥抗争でしかなかったという点に留意する必要があります。
 これは両勢力が動員できるのが原則として自陣営所属の一部パイロットのみであったという事を意味します。
 故に少数の部隊で最大の戦果を期待するため、高価な資源・最新の技術をふんだんに使用した高性能MSこそが求められました。
 当時のMSが可変機構など万能性を付与され恐竜化していった背景には、動員力の乏しさからくる一騎当千志向があります。 
 端的に言えば、この時代においては戦いは数ではなく質であったという事です。
 85年製連邦軍正式採用MSであったRMS-106『ハイザック』が急速にロートル化していくのには、こんな時代背景がありました。

 この時代の流れが、マシンガンを再び衰退に追い込みます。

 その要因のひとつは、パイロット錬度の向上と戦闘の質的変化です。
 一年戦争を生き延びたベテランMSパイロットはそのまま軍にとどまり、実戦経験を基にMS操縦技術を向上させました。
 新人パイロットも、戦中の促成過程でなく、戦後正規に整備されたMSパイロット養成課程を経て配置されていきます。
 この「一定のスキルを持ったパイロット」の充実が、パイロットの射撃技術平均値を向上させました。
 その結果、命中重視でなく威力重視での武装選択が考慮の内に入って来ました。 
 この傾向は、地球出身のエリートを中核に組織された「ティターンズ」の台頭によりさらに顕著になっていきます。

 もうひとつは、ミノフスキー粒子対応技術の発展によるビーム射撃兵器性能の向上です。
 前提として、ミノフスキー粒子による撹乱は、一年戦争時の奇襲時及び戦争中の大量散布時には有効でした。
 これは「いつでもどこでもミノフスキー粒子が散布されており」「センサーがミノフスキー粒子の存在を想定していない」ためです。
 しかし、ミノフスキー粒子が既知のものとなれば、それへの対応・対策技術は当然進歩します。
 そして何より、戦争が終わればミノフスキー粒子散布行為自体が無くなりますので、粒子の影響が薄れます(注10)。
 このような事情から、MS自体の策敵能力・射撃補正能力は戦時中より飛躍的に向上していきました。
 ここに単発射撃武装であったビームライフルの採用メリットが生じます。 

 また、ビームライフル開発技術自体の成熟が、価格面・技術面でのデメリットも軽減したでしょう。
 RGM-179『GMU』用ビームライフルなどは、一年戦争期のビームスプレーガン並みの小型廉価化が実現していました。
 Eパックの発明によりジェネレータ出力に乏しい機体でもビームライフルの携行が可能になっていきました。
 更には、局地紛争に伴う少数精鋭主義から出た高性能MSの開発競争は、武装の高級・高性能化をも誘発しました。
 結果、ビームライフルの連射性能・命中精度・破壊力は飛躍的に向上、マシンガンのメリットを完全に失わせました。
 廉価普及版及び高級高性能版という対極のニーズに対応できる技術の熟成が、ビームライフルをスタンダード化させることになりました。

 そして最後のひとつは、装甲材質研究の進歩です。
 グリプス戦役時の多くのMSが装甲材料として採用したのが「ガンダリウム合金」です。
 非常に軽量かつ耐弾性能に秀でたこの合金、要は「RX-78-2の装甲の改良型」です。
 これは平たく言えば「120mmマシンガンの悲劇の再来」でした。
 この装甲材質は高価で量産には不向きでしたので、戦争時ならばまだマシンガンの有効な局面があったかもしれません。
 しかし、グリプス戦役は前述の通り所詮連邦軍内の勢力抗争であり、少数精鋭志向ゆえに惜しみなくガンダリウム合金が使用されました。
 ガンダリウム合金製MSが主流となると、もはやマシンガンでは装甲を貫通することが困難になりました。

 これらの要素が平行進行していく中で、気づけばマシンガンという兵器は完全な時代遅れの産物となっていました。


 (注10)
  戦後も作戦行動中の艦船からミノフスキー粒子の散布は行われていましたが、地球圏全域への放出量は圧倒的に減少していたはずです。
  平時からミノフスキー粒子を散布しレーダーや通信を撹乱する必然性はありませんので。
  結果、重要拠点以外ではミノフスキー粒子濃度は平常値並みになっていたものと思われます。
  また、ミノフスキー粒子散布自体の戦術目的も微妙に変化しています。  
  戦後のミノフスキー粒子散布は、主に戦術空域における位置特定を撹乱する事や、誘導兵器を無力化する「防御的散布」でした。
  敵の通信・策敵能力を封じ奇襲作戦を補助する「攻撃的散布」とは使用目的を異にしているといえます。
  これは宙域全体の粒子濃度が薄まった結果「濃度が高いところには何かが居る」と逆説的に気づかれるという状態ゆえです。  
  必要以上にミノフスキー粒子を散布する事が出来なくなった事情が、その戦術目的を変えていったといえます。


6 さよなら旧人類、今日から僕らは『ニュータイプ』

 ビームライフルの隆盛には、もうひとつ無視できない要素があります。

 ミノフスキー粒子によるセンサー撹乱は、例えるならば「目隠し」状態です。
 単純に考えれば、このような状態では目くら射ちしか出来ず、それゆえ命中は至難といえます。
 如何に威力があろうとも、命中しないのでは単発光学兵器の価値は大きく減少してしまいます。
 そこにマシンガンの付け込む隙がありました。

 しかしもしも「目隠し状態でビームを確実に命中させる兵士」が居たならば…ビーム兵器の価値は倍増します。

 それが、『ニュータイプ』でした。

 この異能戦士の存在に対し、各陣営はそれぞれの理由から着目、積極的消極的問わず膨大なリソースを投入して研究していく事になります。
 連邦軍は、ホワイトベース隊、特にRX-78-2の異常な戦果をきっかけに。
 ジオン軍は、個人戦果優先主義、スペースノイド優性説からくる『ニュータイプ』信仰、そして人的・物的窮乏から。
 戦後各陣営は、豪華装備少数精鋭主義の当然の帰結として。
 
 特にグリプス戦役以降の各陣営は、なりふりかまわずにこの『ニュータイプ』を希求しました(注11)。
 より強力な『ニュータイプ』を。より多くの『ニュータイプ』を。
 例え民間人であろうと人体実験で造った強化人間であろうと、ローティーンの子どもであろうと関係はありませんでした。
 戦闘能力に秀でた、選ばれし『ニュータイプ』の独壇場となったのです。
 
 結果として、戦場からは規律も秩序も失われました。

 マシンガンを抱えた一兵士の時代は、終焉を迎えました。

 もし歴史のIFを語る事が許されるとしたならば。
 RX-78-2に120mmマシンガンが効かなかったあの時、ジオンが「あのMSにも通用するマシンガンを作ろう」としていたなら。
 後の歴史の流れは、何か違ったものになっていたのでしょうか。
 目隠し状態でも単発武器を命中させる異能者に対し、同じく目隠しで単発武器で立ち向かっては圧倒的に不利です。
 ですが、連射可能でかつ必要十分な威力を持った兵器さえ準備できていれば、凡百の雑兵でも対抗できる余地があったのではないでしょうか。
 そうなればあとはコストパフォーマンスの問題です。
 『ニュータイプ』専用だのサイコミュだのといった不確実な新兵器に貴重なリソースを食われる事も無かったでしょう。
 結果、『ニュータイプ』研究は進まず、その戦闘時の優位性も崩れたかもしれません。
 あくまで、仮定の物語ですが。

 マシンガンという時代遅れとなっていった兵器に郷愁を感じるのは、時代の不条理を嘆くオールドタイプゆえの嘆きなのでしょう。
 往々にして未成熟で歪な『ニュータイプ』によって翻弄される時代への哀しみなのでしょう。


 (注11)
  『ニュータイプ』を以って「人類の革新」とみなす信仰は、その提唱者ジオン=ズム=ダイクンの時代からありました。
  が、『ニュータイプ』と呼称された多くの人物像を通観すれば、それが幻想である事は一目瞭然でしょう。
  『ニュータイプ』は、MS戦闘に適正を持ち、サイコミュ兵器を稼動させる等の特殊能力を持つ戦闘能力の高いパイロットを指します。

  彼ら『ニュータイプ』が特権階級であることは論ずるまでもありません。
  例え民間人でも子どもでも、最高軍事機密を好き勝手に扱って処罰もされません。
  命令無視、軍規違反、機密漏洩、虐殺行為、同僚殺害などを犯しても、ほぼ不問とされます。
  何故なら、多くの場合イデオロギーを持たない『ニュータイプ』は、変節して敵味方を取り替えても何も悩まないからです。
  人間関係に関しても常識外の発想があるようで、かつての同僚であろうと現在の同僚であろうと、不快ならためらい無く殺す事が出来ました。
  (彼らが『オールドタイプ』を、生物学的考察によらず感覚的に『別の下等な生物』とみなしている、という考察には説得力があります)
  そのような扱いにくい『ニュータイプ』ですが、しかし即戦力となるためどの陣営も降ってくれば前歴・精神問題を不問とし即採用しました。
  彼らの変節時にはしばしばそれまでの陣営の最新鋭機体を伴うため、彼我の戦力バランスが一気に覆る事も多かったようです。
  そのため各陣営は『ニュータイプ』を受け入れ、遺留するために細心の注意を払う必要があったのです。
  そしてこの事は、ますます『ニュータイプ』に特権意識を持たせる結果に繋がりました。

  『ニュータイプ』に対する信仰は、宇宙世紀の歴史を解釈する上で非常に重要な要素のひとつです。
  「コスモ貴族主義」「マリア主義」等泡沫の如く生まれた様々なイデオロギーの根幹にあるのは全く同質の要素です。
  すなわち『ニュータイプ』=選民による大衆=衆愚支配を理想とする社会の希求です。
  端的に言えば、ギレン=ザビの思想の後継者達です。
  若き日にザビ家の打倒を願ったシャア=アズナブルでさえ、最終的には思想的にギレン=ザビの忠実な弟子となりました。

  しかし、残念ながら弟子達は師を超えるような思想を纏め上げる事は出来ませんでしたし、おそらくその必要も感じていませんでした。
  例えば各勢力はそれぞれの理由で「粛清」と称する虐殺行為を敢行します。
  師であるギレン=ザビは「劣勢な軍事力をカバーする大規模奇襲攻撃&人口抑制策」という独自思想・政策に基づき遂行しています。
  が、弟子達の多くはもったいぶった理由をつけつつも原則「カッとなって」虐殺を行います。
  これは、弟子達の多くが『ニュータイプ』主義で行動しているからに他なりません。

  この『ニュータイプ』主義の特徴は「感じろ」という一点に集約されます。
  論理や整合性といった個人を束縛するモノは最も忌むものであり、感情に任せた行動が最も「純」で尊いとされます。
  その主張は感情的であるほど良いとされ、具体的には人口抑制(場合によっては粛清)政策を最良とします。
  原因と結果の間の思考過程は感情的かつ短絡的であるほど『ニュータイプ』らしいものとして称揚されます。
   例)地球連邦の腐敗が戦争を生んでいる → 二度と戦争を起こさないよう地球にアクシズを落とす。
   例)戦場に居ると人の思念が自分の中に流れ込んでくる → 敵を皆殺しにしなきゃ。
  原則的に「気持ちが悪い」と感じた対象を「殲滅」しなくては彼らの感情は収まりませんので、思考が虐殺に直結します。

  このような衝動的な人々がイニシアティブを握る社会は、非常に悲惨なものであるといえましょう。

    
おわりに 〜とってつけたようにMSBSに絡めてみる〜 

 マシンガンを例にとり、思いつくままにつらつらと書きなぐってきました。

 本稿で概説したとおり、一年戦争からいわゆるZの時代に至るまでの間にマシンガンという武器は存在意義を喪失しました。
 しかし、このことはそのままMSBSでは通用しません。
 何故なら、MSBSでは「一年戦争〜0083まで」で技術固定がされているという『限定』があるからです。
 これは本稿でいう第4章、すなわち最もマシンガンにとって幸せな時代の再現です。
 第5章以降のマシンガン暗黒の時代に決して進まない、ネバーランドです。

 また、もうひとつ無視できない大きな要因があります。
 何しろ、MSBSの世界はオーパーツ技術の宝庫であるあの「GPシリーズ」が登録抹消されていないのです。
 これは黒くくすんだ暦を新たに書き直す程の決定的な差異を生んでいます。
 とりわけ、ビームを屈曲させ直撃を回避する「Iフィールド」技術が存在・普及している事は、光学兵器の台頭を著しく妨げています。
 ビーム技術は発展せず、その上「Iフィールド」技術が健在な世界。
 しかもそれらは「オーキスez」等によって比較的安価に供給されると来ます。
 もう、ビームライフルにとっては、まさに地獄。

 これは決して「間違い」ではありません。
 MSBSはそういう「架空の状況をシミュレートしている」事を意味しているのです。
 あるいはこのシミュレータを作った人物は『ニュータイプ』なる人々によって散々にかき乱された歴史を呪っているのかも知れません。
 戦場を兵士が支配していた「リアル」な時代を懐かしんでいるのかも知れません。
 だから、もっともマシンガンが輝いた時代に焦点を当てた技術設定になっているのかも知れません。
 ならば、我々がビームライフルでなくマシンガンや175ライフルを手にするのは正しい遊び方なのです。
 一人の『ニュータイプ』より、多勢の熟練兵により集中運用される鉄量が勝負を決する環境なのです。
 MSBSこそ、一般兵の、軍人の、戦士の望んだ夢の戦場、蒼く清浄なる世界なのです。
 
 人は誰しも、マシンガンを撃ちたいという欲望を持っています。
 マシンガンよ、永遠なれ。


041014 AG0891M/ハイヤ・ウルエ







 最後に。
 本稿の内容は、自分の思いつきの列挙であり、公式の設定やソースに乏しい駄文であります。
 他の人にここでのムダ知識をひけらかすと大恥をかくかもしれません。
 ご了承ください。

 MSBS万歳。 
 詳細

【作品名】 コネタ:機動服と機関銃

【作 者】 AG0891M / ハイヤ・ウルエ

【サイズ】 27k bytes

【コメント】
マシンガンを軸にした宇宙世紀概論です。
簡単な読み物ですので、気楽に読んでいただければ幸いです。

MSBS万歳。

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